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福岡地方裁判所 昭和61年(ワ)2741号 判決

原告

吉本八郎

右訴訟代理人弁護士

田中久敏

被告

株式会社ユニバース

右代表者清算人

熊丸美博

被告

熊丸美博

被告

原田文男

主文

一  被告らは連帯して、原告に対し、金一五二〇万円及びこれに対する昭和六〇年三月二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する被告原田文男の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告株式会社ユニバース(以下「被告会社」という。)は、ロンドンココア取引協会等に上場のココア等の商品につき、顧客からの委託により先物取引の受託を行うことを業とする会社である。

被告熊丸美博は、被告会社の代表取締役であり、被告原田文男は昭和五九年五月一日まで被告会社の専務取締役であって、その後同社の管理部部長の職にある者である。

(二) 原告は、昭和五九年一〇月に三菱下関造船所を退職し、その後失業保険を受けるなどして生活する一人暮しの老人である。

2  被告会社への金銭の預託

(一) 原告は、昭和六〇年二月一二日被告会社との間で、ロンドンココア取引協会におけるココアの先物取引を被告会社に委託する旨の契約(以下「本件海外先物契約」という。)を締結した。

(二) 原告は、被告に対し、右先物取引の委託保証金として次のとおり合計一六〇〇万円を預託した。

昭和六〇年二月一三日 八〇万円

同年二月一四日 二四〇万円

同年二月一五日 二四〇万円

同年二月一八日 二四〇万円

同年三月二日 八〇〇万円

(三) 原告は、被告会社から四回にわたり合計八〇万円の返還を受けたが、残り一五二〇万円の返還を受けていない。

よって、同額の損害を被ったものである。

3  被告らの責任

(一) 被告会社は、後記のとおり、善良かつ無知な市民から商品先物取引委託保証金名下に金品を騙取することを日常業務とし、このことは代表取締役以下営業員に至るまで知悉しており、被告会社の有機体としてなす企業活動そのものが不法行為と目されるから、被告会社は、民法七〇九条により原告の損害を賠償する義務がある。

(二) 被告熊丸は、被告会社の代表取締役として、その統括する営業員を指揮、監督して、これを手足として動かし、後記不法行為をさせていたものである。また、被告原田も、被告会社の従業員として、後記不法行為をしたものである。したがって、被告熊丸、被告原田は、被告会社と連帯して右不法行為による原告の損害を賠償する義務がある。

4  被告らの不法行為

(一) 本件海外先物契約と法規制

本件当時、ロンドンココア取引協会におけるココアの先物取引に関する委託契約については、直接の国内法規制はなかったが、商品取引所法、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(以下「海外先物取引受託法」という。)の顧客保護の規定の趣旨は、その違法性を判断する際の有力な根拠となる。

(二) 詐欺による不法行為

(1) 一般の大衆投資家に対し、商品先物取引を勧誘するに際しては、商品先物取引が通常の現物売買と異なり、僅かな証拠金で大量の品物を帳簿上売買し、将来の値動きを予測してその値動きによる差金決済によって損益が生ずるものであり、損益の予見がむずかしいうえに客が預託した保証金の元金は保証されないのみでなく、損金が拡大した場合には追加証拠金(追証)を預託する必要があるなど、投機性が高く非常に危険性の高いものであることを説明することが不可欠である。

(2) しかるに、被告会社の従業員である中田豊二や被告原田は、原告がかつて短期間だけ他の会社で商品先物取引を行った経験があることを話すや、原告の商品先物取引に対する知識経験の程度を知ろうともせず、商品先物取引の危険性を告知せず、その有利性のみを強調し、原告がかつて行った商品先物取引による損を取り戻そうなどといって勧誘した。

(3) 更に右中田や被告原田は、価格の推移について「一〇枚買えば一週間で一〇〇万円儲ります。」などと利益を生ずることが確実であると誤信させるような断定的判断を提供して、原告を勧誘した。(商品取引所法九四条一号、海外先物取引受託法一〇条一号の各趣旨違反)

(三) 勧誘行為の違法性

(1) 本件先物契約は、無差別電話勧誘によるものである。(国内商品取引所指示事項一項の趣旨違反)

(2) 当時、原告は失業保険で暮らしていたもので、商品取引不適格者であったが、被告らはこれを承知しながら、商品先物取引の勧誘をしたものである。(国内商品取引所指示事項二項、新規取引不適格者参入防止協定一項の各趣旨違反)

(3) 被告原田らは、委託保証金を出させる際、常に酒をすすめ、正常な判断能力を鈍麻させて勧誘したものである。

(四) 断定的判断の提供、誤った情報の提供

商品先物取引は、委託者が受託者に対し自己の意思に基づき自己の相場予測に従って取引の指示をなすことを前提として各種の法制、契約書が作成されている。

ところが、現実には原告のように先物取引を業としているわけではない一般の委託者は相場動向を自ら予測し売買を決定することは不可能である。そこで実際には受託業者の従業員が委託者に情報を提供し、そのいうままに売買が決定されてしまう。このような現状に鑑み、海外先物取引受託法は一〇条一号で判断の提供を禁じ、委託者に対し予想、先見等相場観を押しつけることを禁じている。

ところが、被告らは、原告の再三にわたる手仕舞指示に対し、「今手仕舞したら損だ。」などと自己の相場予想、しかも客観的な状況よりみればそれほどの根拠があるか疑わしい予測を絶対のものであるかのように説明し、取引を継続させている。

(五) 手仕舞指示拒否

前記のとおり、被告らは、原告の再三の手仕舞指示に応じないまま取引を継続させ、原告に損害を被らせたものである。(海外先物取引受託法一〇条五号の趣旨違反)

5  結論

以上のとおり、原告は被告らの前記不法行為により合計一五二〇万円の損害を被った。

よって、民法七〇九条に基づき、被告らに対し連帯して右損害額一五二〇万円およびこれに対する不法行為の日の後である昭和六〇年三月二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告原田文男の認否

1  請求原因1の(一)の、被告会社に関する部分は認め、被告原田が被告会社の管理部長の職にあったことは認める。同1の(二)の事実は認める。

2  同2のうち、(一)(二)の事実は認め、(三)は否認する。

3  同3はいずれも否認する。

4  同4の(一)は否認する。同4の(二)のうち、(1)の事実は認め、(2)(3)は否認する。同4の(三)のうち、(1)(2)は不知、(3)は否認する。同4の(四)(五)は否認する。

5  同5は否認する。

第三  証拠関係〈省略〉

第四  被告会社、被告熊丸の不出頭

被告会社および被告熊丸は、公示送達による呼出を受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

一次の事実は原告と被告原田との間に争いがない。

1  被告会社は、ロンドンココア取引協会等に上場のココア等の商品につき、顧客からの先物取引の受託を行うことを業とする会社であり、被告原田は、その被告会社の管理部部長である。

2  原告は、昭和五九年一〇月に三菱下関造船所を退職し、その後失業保険を受けるなどして生活する一人暮しの老人である。

3  原告は、昭和六〇年二月一二日被告会社との間で、ロンドンココア取引協会におけるココアの先物取引委託契約を締結し、右先物取引の委託保証金として合計一六〇〇万円を被告会社に預託した。

4  一般の大衆投資家に対し、商品先物取引を勧誘するに際しては、商品先物取引が通常の現物売買と異なり、僅かな証拠金で大量の品物を帳簿上売買し、将来の値動きを予測してその値動きによる差金決済によって損益が生ずるものであり、損益の予見がむずかしいうえに客が預託した保証金の元金は保証されないのみでなく、損金が拡大した場合には追加証拠金(追証)を預託する必要があるなど、投機性が高く非常に危険性の高いものであることを説明することが必要である。

二〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、被告原田文男本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

1  被告会社は、ロンドココア取引協会等に上場のココア等の商品につき、顧客からの先物取引の受託を行うことを業とする会社であり、被告熊丸は同会社の代表取締役、被告原田は、同会社の管理部部長である。

原告は、三菱下関造船所に四三年間勤務し、技術部門である仕上工をしていた者であるが、昭和五九年一〇月に三菱下関造船所を定年で退職し、約一六〇〇万円の退職金を受け、昭和六〇年二月当時、失業保険を受けるなどして生活する一人暮しの五八歳の老人であった。

2  原告は、昭和五九年一二月から昭和六〇年二月中旬ころまで、「エース交易」という会社で、大豆の商品先物取引をして、結局約四〇〇万円損を出していた。しかし、そこでも先物取引の仕組みや危険性など充分に説明を受けなかったのか、これらの知識、経験は充分ではなかった。

3  昭和六〇年二月一一日に、被告会社から女の声で電話があり、ココアは今は絶対に儲るから先物取引をしてはどうか、という勧誘があった。この電話は、被告会社が、教職員名簿、国鉄職員名簿、電話帳などに基づいて無差別に選んで、先物取引の勧誘をさせていたものである。

4  右電話に対して、原告が冗談半分に「勉強してもいいな」と答えると、翌二月一二日、被告会社の従業員の中田豊二が原告方にきて、なんらの根拠もないのに、「今、ココアを買っておけば儲る。」「一〇俵八〇〇万円で、一週間もせずに二〇〇万円くらい儲るから、一俵八〇万円でも買った方がいい。」などといって一時間くらい勧誘した。その際、商品先物取引の仕組みや危険性については殆ど説明せず、専ら利益が出ることのみを強調したため、原告は、被告らがいう程の利益はないにしても多少の利益はあり、少なくとも損失が出ることはあるまいと考えるに至った。そして、当初は右中田があまり執拗に勧誘するので、原告は、飲酒していたこともあり、面倒くさくなって、八〇万円だけ買うことにした。そしてその際、原告は、本件先物契約書(甲第一号証)に署名押印したが、内容については、読んでも充分に理解できないため殆ど読まなかった。

5  そのようにして、一旦原告が契約書に署名押印するや、右中田と被告原田は、その後も原告方を再三訪れて、更に多額の投資をするよう執拗に勧誘した。その際、原告が承諾もしないのに、その場で勝手に被告会社の井上課長に「今九枚なんとかならないか。」と電話を入れ、「今九枚あるというので、今九枚注文した。」などといい、原告をして、今更注文を断わることができないような気持ちにさせて、勧誘するなどの方法をとった。その結果、原告は結局あと七二〇万円を追加して合計八〇〇万円だけ買うことにした。その資金として預金を引き出すために、被告原田らが車で原告を郵便局や銀行に連れていって預金を下ろさせ、あるいは被告原田が原告の預金通帳と印鑑を預かって預金を下ろしたこともあった。その八〇〇万円を出させた後も、被告原田らは更に原告に対し、温泉の一泊旅行に連れて行き、あるいは、飲酒中で気が大きくなっている原告に、長時間執拗に勧誘するなどして、更に八〇〇万円を出させるに至った。

このようにして、原告は結局前記一六〇〇万円の退職金の全額を、請求原因2(二)のとおり、被告会社に手渡してしまった。

6  その後、原告が被告会社に電話すると、一六〇〇万円のものが既に一二〇〇万円に値下がりしているとの返事であり、原告は、更に損害が大きくなることを心配して、被告会社に対し、取引は止めて決済(手仕舞)してくれるように再三申し入れたが、被告会社の被告原田や井上課長は、損失を防ぐため更に両建てしたほうがよい、などと更に投資するようにいい、言を左右にしてこれに応じなかった。そこで原告は、田中久敏弁護士(本件訴訟代理人)に相談し、同弁護士を通じて決済を申し入れたところ、被告会社は、昭和六〇年四月四日付の決済書類を交付したが、それによると保証金の残額は既に二六四万四一九八円になっていた。しかし、その返還のための資金は被告会社には全く準備されておらず、被告熊丸と被告原田が連帯して支払う旨の念書(甲第七号証)を差入れたにもかかわらず、その二六〇万円余りすらも、被告会社は現在まで支払っていない。

7  被告会社は、昭和五八年に、代表取締役塚本泉、専務取締役中山幸英、取締役営業部長若松健一、取締役管理部長被告原田文男の四人が中心になって、商品先物取引の受託業務を目的として設立されたものであり、その後昭和五九年七月一二日に代表取締役が、塚本泉から被告熊丸美博に交代した。そして、昭和六〇年二、三月当時、被告会社の従業員は約三〇名くらいであった。

被告原田文男本人の供述によれば、被告会社では、顧客からの注文があると、被告会社から香港にある東京コモディティなる会社に注文を出し、その東京コモディティからロンドンの東京コモディティなる会社を通じてロンドンの商品取引所に注文が出されていたこと、しかし、被告会社と香港の東京コモディティとの間の取引内容や、香港の東京コモディティとロンドンの東京コモディティとの間の関係(別の会社であるかどうか、別会社であればその間の契約関係はどうなっていたのかなど)もはっきりしないこと、また、各顧客(ロンドンのココアの取引をする客は五〇人くらいいたという。)からの注文はこれを一括して(各顧客ごとではなく、自己玉をも合わせて)出していたから、各顧客一人一人の注文が果して現実に指示どおり右経過に従ってロンドンの商品取引所に出されていたのかどうかも疑問であること、会社の幹部で管理部長たる被告原田すらこれを確実に把握していなかったこと、などが認められ、また、同供述によれば、顧客から預かった保証金についても、それが被告会社でどのように処理されたかについても、幹部である被告原田は知らないといい、会社の経理は、すべて社長(被告熊丸)と女事務員がやっており、保証金は香港の東京コモディティに女事務員が送金していたが、果していくらを送金したかも分からないという。

三ところで、商品の先物取引は、少額の証拠金で差金決済により多額の取引ができる極めて投機性の高い行為であって、取引額が多額にのぼるため僅かな単価の変動により莫大な(しばしば証拠金を上回る)差損金を生ずる危険があることは公知の事実である。しかも海外商品市場における先物取引においては、一般の顧客にはその相場や値動き等の情報が容易に得られず、かなりの専門的知識、経験を必要とするものである。したがって、海外商品取引業者がこれら専門的知識、経験を有しない一般大衆に対して、これらの海外商品市場における先物取引の受託契約を締結するに際しては、まず、①これらの先物取引の仕組みや危険性を充分理解し得ないような不適格者に対して契約を勧誘すべきではなく、また、②勧誘する場合においても、右のような取引の仕組みや高度の投機性、危険性などを説明し、これを充分理解させたうえで、受託契約を締結するようにし、もって、これらの専門的知識、経験を持たない一般大衆が海外先物取引に参入して不測の損害を被ることのないようにすべき注意義務があるものというべきである。また、③先物取引の委託契約は、委託者が自己の意思に基づき取引の指示をなすことを前提としているところ、現実には専門的知識のない一般の委託者が、海外商品市場における相場動向を自ら予測して売買を決定することは不可能であり、受託業者の提供する情報のままに売買が決定されることになる現状から、海外先物取引受託法は、これら受託業者が顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断の提供を禁じている(同法一〇条一号)。当時、本件海外先物取引は、海外先物取引受託法の規制対象とはされていなかったが、その立法趣旨からみて、その受託者保護の規定の趣旨は、本件の注意義務としても当てはまるものというべきである。しかるに、被告らの行為は、次のとおり右各注意義務に反している。

1 本件の原告との先物取引委託契約は、被告会社が、教職員名簿、国鉄職員名簿、電話帳などに基づいて、相手の先物取引に対する知識や理解力等、海外先物契約に対する適格性の有無は全く考慮せず、無差別に電話をかけて勧誘の相手を選択するという方法によったものである。

2 当時、原告は、もと造船所の工員であり、失業保険で暮らしていた一人暮しの五八歳の男性であって、先物取引に対する専門的知識、経験はもちろん、これを理解し得る能力にも欠ける契約不適格者であったにもかかわらず、被告らはこれを承知しながら、本件先物取引の勧誘をしたものである。確かに、原告は、当時数か月前から他の会社で先物取引をして四〇〇万円ほどの損失を出したのであるが、もともと技術関係の工員であり、先物取引に関する知識、経験は殆どなかった(前回の先物取引でもその点の充分な説明はなかったものと思われる。)ものであり、これらのことは、その道の専門家である被告らには、勧誘の際のやりとりから、すぐに判断できたはずである。

3  被告原田らは、本件先物取引を勧誘するに際しては、前記二の4、5項認定のように、飲酒により気が大きくなり、正常な判断能力の鈍麻している原告に対し、長時間にわたり執拗に勧誘し、なんら確たる根拠もないのに、必ず利益が出るかのような断定的判断を提供し、しかも、その際、前記のような本件先物取引の仕組みや危険性については殆ど説明しなかったものである。その結果、ついに原告をして、退職金の一六〇〇万円の全部を被告会社のために投資させ、多額の損害を与えるに至ったものである。

4 前記認定のとおり、被告らは、原告の再三にわたる手仕舞指示に対し、「今手仕舞したら損だ。」などと、確たる根拠もない予測判断を提供して、原告の手仕舞指示に応じないまま取引を継続させ、原告に更に甚大な損害を被らせたものである。しかも、被告会社の説明による保証金の残金約二六〇万円についても、現在までこれを支払わないものである。

以上のとおり、被告会社の従業員である被告原田らの原告に対してとったこれらの行為は、前記注意義務に違反した違法な行為であり、不法行為を構成するものというべきである。

また、前記二の7項に認定したところによれば、被告会社と香港東京コモディティとの間の取引内容や、香港の東京コモディティとロンドンの東京コモディティとの間の関係もはっきりせず、また、各顧客からの注文を一括して(自己玉をも合わせて)出し、その取引書類からは、どの分が原告の注文によるものかを確認する方法がなく、各顧客一人一人の注文が果して現実に指示どおり右経過に従ってロンドンの商品取引所に出されていたかも極めて疑問であること、そして、顧客から預かった保証金の処理についても、会社の経理は全て社長(被告熊丸)と女事務員がやっており、保証金は女事務員が香港の東京コモディティに送金していたというが、果していくらを送金したかについて、会社の幹部である被告原田すら知らなかったこと、前記手仕舞による清算金についても、被告会社にはこれを支払う準備がなかったこと、などを総合すると、被告会社自体、顧客から先物取引の委託を受けた業者として、委託の本旨に従い善良なる管理者の注意をもって委託事務を処理する体制にあったとは到底認められない。そして、これらの被告会社の実体は、幹部である被告熊丸や被告原田らは当然知悉していたはずである。

そして、前記不法行為も、これら被告会社の実体等と無関係とは考えられず、被告会社の個々の従業員による単独の不法行為というよりは、会社ぐるみの共同不法行為と認めるのが相当である。

四したがって、直接原告との取引に関与した被告原田は民法七〇九条により、その使用者である被告会社は同法七一五条一項により、従業員を直接指揮、監督すべき地位にあった被告熊丸(僅か三〇人程度の小規模の会社であるから、代表取締役である被告熊丸は各従業員を直接指揮、監督する立場にあったと推認するのが相当である。)は同法七一五条二項により、それぞれ右不法行為により原告の被った損害を賠償すべき責任がある。

そして、原告が右不法行為により被った損害は、前記認定のとおり、証拠金として支払った合計一六〇〇万円から、原告が支払いを受けたと自認する八〇万円を控除した一五二〇万円と認めるのが相当である。

五以上によれば、被告ら各自に対し右損害金一五二〇万円およびこれに対する不法行為の日の後である昭和六〇年三月二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は理由がある。

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官綱脇和久)

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